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進行癌に対するレーザ治療


 埼玉県立がんセンターでは、
 内視鏡的レーザー治療は、
 進行胃癌、特に、癌性狭窄改善
 を主目的として行なった。




第二回消化器レーザー研究会に出席してビックリした。
早期胃癌に対するレーザー治療が全盛だった


昭和57年(1982年)11月18日に、 "第二回消化器レーザー研究会" に出席した。


国立がんセンターの小黒八七郎先生から「是非とも出てみないか」と誘われたからである。

出席してビックリした。
日本全国の20以上の主だった病院から "早期胃癌" に対する内視鏡的レーザー治療に関する発表があった。

 参照)Nd:YAGレーザー - Wikipedia
 参照)Nd-YAGレーザー(ネオジウム・ヤグレーザー)

僕は、消化器病学会、胃癌研究会、癌治療学会、癌学会、そして、消化器内視鏡学会 の殆ど全てのものには、出席していた。

そして、消化管で胃関係、癌関係、最近のトピックス、等には必ず顔を出していたはずだったのに、早期胃癌に対するレーザー治療のことは全く知らなかった!



第二回消化器レーザー研究会では、レーザーによる、特に、Nd-YAGレーザーによる "早期胃癌" の内視鏡的治療方法についての、基礎的な研究が多かった。

特に、熱の仕事量・エネルギーの単位であるジュールに関連した発表が多かった。
「どの程度のジュールを与えたら(癌)組織が崩壊・壊死に陥るか」など。

 (参照)ジュール - Wikipedia
 (参照)ジュールとは - はてなキーワード
 
「ジュール」という言葉の定義は、
いろいろな方向から云えることだが、内視鏡下でレーザー治療する時は、レーザー導光用ファイバーの先端端子から、ターゲットとする病巣迄の距離を考慮しないで、1 ジュール は =1 ワット・秒(1 W · 1 s )としての数字だった。
これは、レーザー発生装置が、どの程度のレーザー熱の仕事量を発生したか、「ジュール」として数字で表示していたからでもある。


故に、この数字は、光(レーザー光線)は距離の二乗に反比例することを殆ど考慮しないでの「ジュール」に関することを発表していたので、
僕はレーザー光線を全く使ったことがなかったが、理論的見地から「レーザー照射部位からターゲットとする病巣までの距離を考慮しないで、ジュールでもってレーザーの威力を表現するのは可笑しい」と、激しく反論して質疑応答した。

物理的なこと、机上論だったが、この研究会に出席している大多数の医師・研究者に対して、僕・二ツ木のことを、さも「レーザーのことには詳しい大家」の如く印象つけた。

故に、遅ればせながら、レーザーによる基礎研究、臨床応用のデーターの発表を急いで行なう必要に迫られた!


僕は、誰も手をつけていない "進行癌" に対してレーザー治療を行なうことにした

僕のものの考え方、研究に対する基本姿勢は、


 
まず、絶対に「過去のデーターを信用しない」

そして、
「もし大多数の医師が認める偉大な研究・成績が存在した場合、その欠点を探して正反対の方向から検討・研究する

あるいは、
「全く誰もが手を付けていないことを探して研究する」
ことである。


 (参照)胃X線検査法に凝りに凝る
 (参照)白壁彦夫先生に僕の強烈な印象を与えた
 (参照)「病理組織型別にみた胃癌の鑑別診断」


がんセンターに帰って来てから、「さて、どのような方向で、癌に対するレーザー治療をおこなうか」、いろいろ考えた。
  
今更、 "レーザー光線についての基礎研究" 、あるいは、"早期胃癌に対するレーザー治療の効果" 等を検討しても、手遅れである。

進行胃癌については、日本全国、誰も手を付けていない。」
「手術不能な、或は、手術後に再発した進行胃癌について、化学療法、免疫療法など行なっているが、その成績は全く芳しくない」
進行胃癌の症例には困らない、むしろウヨウヨいる」
進行胃癌に対して、免疫・化学療法に内視鏡的レーザー療法を併用したら、全く新しい知見が得られるかも知れない」との考えから、
進行胃癌に対するレーザー治療を行なうことにした。

 まず第一に、腫瘍reduction
 第二に、癌性狭窄改善
 次いで、腫瘍からの止血

とした。


進行胃癌に対する内視鏡的YAGレーザー治療の方法・実際

早期胃癌に対する "内視鏡的レーザー治療" は、癌組織を凝固壊死させれば良い。
故に、高出力のレーザーは必要ない。

 (参照)凝固壊死 とは - コトバンク
 (参照)レーザー凝固
 (参照)Nd:YAGレーザー - Wikipedia
 (参照)レーザー治療PDT 光線力学的療法



しかしながら、レーザー照射により
進行胃癌の大きな腫瘤・腫瘍を縮小させる為には、大きなエネルギーが必要になる。

すなわち、腫瘤の縮小は個体の気化(蒸散)である。
 (laser vaporization)

埼玉県立がんセンターでは、MBB性のNd:YAGレーザーを購入、使用することにした。

なお、診断用と区別する為に、使用するファイバースコープは、
診断用はオリンパス製、レーザー用はフジノン製にした。
 (参照)MBB - ウィキペディア - Wikipedia
 (参照)Nd:YAGレーザー - Wikipedia
 (参照)オリンパス - Wikipedia
 (参照)フジノン - Wikipedia

 (参照)蒸散 - Wikipedia
 (参照)蒸散 とは - コトバンク
 (参照)蒸散

 (参照)laser vaporization


さて、どのような方法で、レーザー照射すれば、効率よく腫瘍を縮小できるのか、論文、文献上にも全くデーターがなかった。
   
暗中模索で、進行癌に対する内視鏡下でのレーザー照射を始めた



太陽光線で、ルーペで光を集めて、黒色の紙などに当てれば、その紙は燃え上がることを思い出して、胃癌腫瘤に「墨汁」を散布してレーザー照射してみたりした。  
全く馬鹿げたことをしたことになったが、腫瘍表面に散布された墨汁が燃えて、黒いススを出すだけ・・・


また、出血した場合、その血液にレーザー光線を照射すると、
「墨汁」の場合と同様に、煙・ススが多量に発生して、腫瘍reduction 出来ない
だけでなく、 
 内視鏡スコープの先端レンズにススが付着して、このススはレンズ先端の水洗浄では取れず、視野が非常に悪くなり、
レーザー治療を中止せざるを得なくなることが多かった。


故に、進行癌に対するレーザー照射は、レーザーの特徴である「非接触照射法」は、むしろ不向きであることが判明した。

そこで、
その当時、特許問題でゴタゴタしていた "SLTジャパン製" 「セラミック製の接触チップ」を使った「接触照射法」が、
進行癌に対しては適していることが判明した。

 (参照)物質の状態|【固体・液体・気体】の達人
 (参照)非接触照射
 (参照)接触照射
 (参照)セラミック製チップを用いたLaser angioplastyの基礎的検討
 (参照)レーザー蒸散(ライフサイエンス辞書)
 (参照)レーザー蒸散法(ライフサイエンス辞書)
 (参照)内 視 鏡 的 接 触 型 凝 固 治 療
 (学会発表)「接触型端子による Nd:YAG レーザー内視鏡の試み」中川高志、二ツ木浩一、ほか 第29回日本消化器内視鏡学会総会(東京)、1985.5
 (学会発表)Relative merits of non-contact and contact method for stricture improvement of advanced gastric cancer in cardiac region. Futatsuki, K. et al、International Nd:YAG Laser Symposium、1986.11
 (学会発表)接触法によるNd:YAGレーザー照射方法の改良・(1) 送水ポンプの改良と先端チップの開発。二ツ木浩一ほか。第45回日本消化器内視鏡学会関東地方会(東京)、1987.12



週に2回、火曜日と金曜日の午後に3例ずつ行なったが、
1人で3例を3〜4時間、連続して行なうのは、
僕は、肉体的には勿論のこと、むしろ、緊張のため、精神的に「クタクタ」になった!


一方、当初の頃は、嶋田定嘉先生は、若かったので、或は、僕から命令されたので、
「非常に疲れた!」等と音を上げなかったかった、のかな。

慣れるに従い、1日3例を僕1人で行なっても、それほど疲れなくなった。
(精神的な緊張が軽減されて来た為である)


そして、進行胃癌に対する内視鏡的Nd:YAGレーザー治療は、
「癌性狭窄」に対する効果が大きいことが判明した。

その後の、埼玉県立がんセンターでの臨床研究のデーマは、


進行癌に対する
 内視鏡的Nd:YAGレーザー治療
 (特に、噴門部の癌性狭窄)



になったが、嶋田定嘉先生と一緒に始めたことであり、
言い換えれば、嶋田定嘉先生がいなかったら、この研究はどうなっていたのか、、、と思われる。


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タグ : 埼玉県立がんセンターレーザー治療進行胃癌癌性狭窄改善

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昭和19年11月25日撮影。
左の健三が満1才の記念写真。
右の俊二は5才4ヶ月、
中央の僕は8才8ヶ月である

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